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10月5日 時 (11)。。。



あいつは物心ついた頃から楽しみなどなかった。
常に恐怖と不安に覆われ目の前が晴れる気がすることなど皆無だった。
小さな頃からの両親からの暴力により人間不信そして対人恐怖症へと道のりは険しさなど
あるはずもない。
人と面等向かって話すことすら中々できず、なるべく目立たぬよう引っ込み思案で
いる事こそがあいつの生き方だった。
活発であるべき少年時代は無気力で何に対しても興味を示さない人間失格で
ある存在であった。





あいつは中学校へと進学しようと相変わらず大人しく無口であった。
それでも友達はできた。互いに他人を牽制し合い友人とは言えない仲かも知れない。
気の合う間柄ではないにしろある行動をする際は一緒だった。
いやそのために何故かしら集まる一風変わった関係だと言える。


その頃の中学校も荒れていた。
女性の先生には刃向かっていたし喧嘩沙汰は絶えなかった。
だが厳しい先生はいた。生徒をひっぱたくことなどしょちゅうだ。


体育の授業はサッカーだった。
あいつは足は速くサッカーと言う競技は自信があった。
それは小学生の頃は遊びでよくやっていた過去があるからだ。
あいつはゴールを決める。点数を取ったからと言って決して浮かれたりなどしない。
平然とボールを追い続ける。
あいつがボールを蹴ると皆ボールを追いかけ周りへと人が散らばり一人だけになった。
そこへ相手チームの3人組が近づく。
その内の一人があいつの後ろに近づき突然お尻に蹴りを入れる。
痛みが走る。後ろを振り向くが既に3人一緒に走り出した後だった。
あいつに蹴りを入れた一人が振り向きニタニタしながら「ざまあみろ」と言うのが
耳に入る。
それでもあいつは何もなかったのごとくボールを追い続けた。


既に日が暮れ周りは真っ暗だ。電柱の電燈の明かりのみがその住宅街を照らす。
あいつは待った。わざわざ電燈がない電柱の陰に隠れしばらく待った。
既にどの家であるかは探った。いつも自転車通勤である事も。
そして今日は学習塾で帰りが遅いことも中学生のあいつは丹念に調べた。

自転車の明かりが近づく。あいつに気づかずにそばを通り過ぎる。
目星をつけていた自転車だ。待ち望んだ自転車だ。
ブレーキをかける音が耳に入るとあいつは走り出す。
一目散にその目的物へ駆け寄る。
あいつは振り上げる。手に持っていたバットを大きく振り上げる。
ペダルから地面へおろしたばかりの右足に向かい振り上げたバットを打ち下ろす。
バシッと鈍い音とともにかすかなうめき声が聞こえる。
構わず同じ個所へ野球で低いボールを打つように思いきりバットを振り回す。
鈍い音が聞こえる。と同時に殴られた相手は自転車共々倒れる。
あいつは走る。住宅街の薄暗い電灯の明かりの元バット片手に懸命に走る。
ただ走る。誰にも出会わなかった。いや出会わなかったはずだ。
心臓は高鳴り呼吸は荒い。走りながら後ろを振り返る。
聞き耳を立てる。歩き出す。荒い呼吸を整えながら歩き出す。
ゴミ箱に隠し置いていたグローブを拾い上げると平然と歩く。
如何にも野球の部活動を終えた一人の少年のように。


あいつの尻を蹴りあげた人物はしばらく学校では見かけなかった。
あいつは顔色一つ変えなかった。
あいつの耳に入る。休んでいるのは足の骨が折れたせいだと。
いつしかあいつの顔はほころぶ。


授業の終わりに担任の先生があいつに声をかける。
「俺についてこい。」と言われる。
あいつは付いて行く。その担任の後を訝しげな顔つきで。
案内された部屋は校長室だ。
開けられた扉の向こうには校長先生と見知らぬ二人の人物が椅子に座っている。
扉で佇むあいつに担任は中へ入るよう指示する。
あいつはその二人へ近づくと相手は立ち上がりその内の一人が胸ポケットから出す。
「こういう者です。」とあいつの目の前に提示する。
それは生まれて初めて目にするものだった。
あいつはそれを眺めていると解放感と安心感に襲われ心地よくなった。。。




それでは又です。


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2008.10.5by 博多の森と山ちゃん



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