11月19日 帰路。。。
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地平線より下方へ落ちた太陽の変わりに今では月明かりが柔らかな輝きで
あいつの徒歩での帰り路を照らす。
アスファルトの藍色さえ暗闇の漆黒の色へと変化しうる夜と言う帳にひと際寂しさに
苛(さいな)まれる。
人工的な町並みでは夜間の澄み切った空を見上げようと星の集合体のきらびやかな
輝きは届くはずもない。既に満天の星空と言う代名詞はこの町では死語だ。
それは街灯で照らし出される昼夜問わずの可視光線が人間を常に表へと導き出している
理由によるだろう。
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ところどころ街灯の光に従いながら一歩一歩寒空の中を歩む。
あいつは歩道の横を通り過ぎる2輪そして4輪車の音波と光波にいちいち反応することには飽きた。
空から轟く轟音も飛行機だと気づくが最早意識の外での出来事でありあいつの耳の内部までは
決して伝わらない。
24時間決して留まることを知らない音波と光波はその町で暮らす人々の生活の一部と化し
肌、皮膚になじんでいる。
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あいつの足取りは重く歩む速度はゆっくりだ。
それどころかいちいち脚へと意識を注力し、精一杯筋力を使わねば足が上へ上がらない。
さもないと立ち止まり今にも立ち尽くす。
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あいつはあらん限りの頭脳、肉体を駆使しいつもものづくりをやっている。
休みを厭わず酒、煙草もやらない。飲み会で憂さを晴らすなど無駄な事柄だ。
家族を養わねばならない。会社の従業員を食わせねばならない。
両親も元気でいてもらわねばならない。
会社を潰す訳には行かない。皆を路頭に迷わせる事などできるものか。
甘えを一切拒否し嘆くなどもっての他だ。
愚痴をこぼす位なら次なる未来を考える。疲れたなど何を泣き言を言っているのか。
ひたすら仕事に没頭し贅沢などこの世には存在しない。
最低限衣食住が備われば十分だ。
常に苦しみそして悩む。楽しみなど必要ない。
淡々と生きる。決して感情的にならず感じるだけだ。
いくら心で泣き苦しもうと表情は常に笑顔だ。
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他には出来ないものを作る。
常にアイデアを出しそれを現実化する。
しかし、現実、実際はそう簡単にいくはずもない。
常に一品料理で過去経験がなくとも果敢に挑戦する。
見事に完成しようとも不具合が発生そして手直しを続ける。
作るために苦しみもがく。その苦労の甲斐あって出来上がろうと手直しが繰り返される。
常に苛まれもがく。他にはない製品。誰も助けてはくれない。
あらんばかりの力、頭脳を駆使しひたすら必死に対応する。
他社にはない製品を作らない事には我が町工場は路頭に迷う。
常に考えアイデアを出しそして作り完成させる。
それを持続しない事にはブランド力のない小さな町工場は電話帳から会社名は消え去る。
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今回もそうだ。
いくらやってもどうやろうともうまく稼動しない。
当然ながら相手先からは散々に怒髪天に叱咤される。
うまく稼動しなければ相手先の商売さえも左右する。
常に一刻を争い常に利益をむざぼる。
手直し、不具合対応は一銭の価値も生まない。ひたすら出て行く一方だ。
注文決定時も利益稼げる金額ではない。ブランド力がない会社がどれほど信頼が置けるか。
常に信頼、信用と利益を天秤に掛け、掛けられ奈落の谷の上に掛けられた細い紐の上を
何とか落ちぬよう細心の注意を払いながら歩む。
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既に次なる装置の開発を頭に描いてはいる。
しかし、実際良好稼動までにどれ程の苦しみが待ち構えているのだろうか。
いや実際うまく行くのか。不安と心配があいつの身から離れない。
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注文がなければその対処に力を注ぎ、次なるものづくりの要請があればあらんばかりの力を
当然注ぐ。常に苦心し苦衷の煩わしさと格闘を続け決して解放されることはない。
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どうしたのだろうか。
あいつは我が自宅への帰り道どうしても足が進まない。
過去これほど足が重く感じたことがあっただろうか。
わだかまりがあいつの心模様をあやふやな不安と言うさざ波が襲い掛かる。
遅い速度の歩みは一層その踏み出す歩幅が狭まる。
空を見上げるせず歩道に敷き詰められたアスファルトをひたすら見入る。
決して歩みは止まることはない。止めようとはしない。
次第に息が苦しくなる。何とか深呼吸をしようと試みるが既に大きくは息を吸えない。
絶え絶えな呼吸の繰り返しだが止まることはない。
体は総毛立ち意識が朦朧とする。
いつしか体の奥底から込み上げる。当初僅かであったものが次第に大きくなりそして
上半身から上へと立ち上る。
その思いは最早こらえることが出来ない。
いつしかその流れは目の瞳を濡らし始める。
時の流れと共にその粒は大きくなり止めどもなく溢れ出す。
一切拭い去ることはせずにアスファルトの歩道を一粒一粒濡らす。
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あいつは顔中を濡らしながら一人呟く。
「もうこれ以上できないのか。これからもこの繰り返しなのか。」
「きつい。苦しい。」「逃げ出したい。もうこの先、どうすれば良いのか。」
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あいつは決して歩みを止めることはない。
空からあいつをほんのりと照らし続けている半月に気づくはずもない。
留めでもなく溢れ出す涙。下を向いたまま決して拭うこともせずに歩む。
濡れている目に映っている道路は確かではない。
道筋は定かではないが日頃毎日作業着と安全靴で通っている道だ。
決して迷うことなく涙で濡らしながらその道を歩む。
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いつしか気がつく。あいつのマンションは間近だ。
ハンカチをポケットから取り出すと懸命に顔を拭く。
マンションの前に佇みしばらくハンカチで長きに渡り落ちていったしずくを残らず拭い去る。
赤い線が染み込んだ目の中は致し方ない。
気を落ち着かせ、普段と変わらぬ装いを取らねばならない。
今までの行動を一切悟られてはならぬ。
あいつは何度も深呼吸を繰り返す。都会に漂う排気ガスをもろともせず繰り返す。
次第に自意識は明確となり自分自身を取り戻す。
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エレベータに乗り込みあいつの我が自宅の階で降りる。
エレベータより自宅の玄関までのコンクリートの通路をゆっくりと進む。
玄関を目の前にし再度深呼吸を試みる。
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鍵を解放しドアのノブを右手で握り締める。
ノブを廻しドアを開ける。
視界が開け我が家の玄関の様子があいつの脳細胞を刺激する。
中に入り後ろを振り向き開けたドアを閉める。
鍵を掛けロックチェーンも引っ掛ける。万全な戸締りを終了する。
常に履かれた安全靴を脱ぐと廊下へと足を進める。後ろを振り向き靴をそろえる。
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一連の日常の仕草が終了するとリビングのドアのノブを右手で廻す。
そのリビングのドアを開ける。
奥で座っているあいつの息子が気が付きすかさず「お帰り~。」と声を出す。
その声があいつの耳に入る。
その途端に又しても。あいつの聴覚を刺激したあの声に又しても。
あっという間の出来事だった。瞬間のつかの間に起こった。
込み上げてくる。とめどもなく込み上げてくる。
理由など分からないし詮索する余裕などない。
何故かしら体の奥から瞬く間に込めあげて来る。
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あいつは中に入らずに後ろを振り返りトイレのドアのノブを握る。
そして体をトイレの中に入れる。そしてドアは即座に閉められた。
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それでは又です。
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読破中。
「女王の百年密室」森博嗣著。
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2007.11.19by 博多の森と山ちゃん
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