6月1日 大丈夫です。。。
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不安は自分の口から、その言葉が出た瞬間から始まった。
決して自ら進んで発言したわけではない。
雰囲気に追い詰められそう言わないことには、何も進展しない情況だった。
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電話口から聞こえてくるその声には、いつもの明るさは皆無だった。
既に受話器の声の響きである程度は把握はできた。
先ずは足を運び実際に会って話をしなければ。
互いの認識に違いがあればこれから先果たしてうまくいくかどうか分からない。
「すぐに行きます。 」と相手に告げ即座に車に乗り込む。
エンジンを掛けると急いでアクセルを踏む。
道のりは長い距離ではない。
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大通りの信号を右に折れると即目に入るビルだ。
客先は最近そこに移られた。以前が手狭だったせいだろう。
地下にある駐車場に車を止める。
バックを手に取ると急ぎ足でその場所へ向かう。
エレベータで1階に上がり受付へと向かう。
担当者は既に私を待っていたようだ。
私を見つけると足早にこちらに近づいてくる。
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「早かったね。」と声を掛けられる。
「近くですから。」と答えるころには既に相手は歩み出す。
後ろを全く振り向かずに私の先を歩く。
エレベータは7階のボタンの明かりがついていた。
相手は終始無言だ。
エレベータを降りてからも常に私の先を歩き決して振り返ることはなかった。
「会議室03」と札が付けられた部屋の前で立ち止まる。
一呼吸置くと会議室扉を2回ノックする。
その音は静かな廊下に響き渡る。
右手で扉のノブを回転させ開ける。
扉を前へ押しやると視界が広がる。
先に入るよう手で合図される。
その指示に従い「失礼します。」と頭を少し下げ終わると真っ直ぐ歩む。
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その部屋の中には4人の見知った顔が並んでいた。
皆一斉に立ち上がり頭を下げる。
私は又しても前回より一段と低く頭を下げながら「こんにちは」と声を出す。
「どうぞ。」とのどこからかの聞こえた声に従い皆と同時に椅子に腰掛ける。
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沈痛な雰囲気は部屋に入った瞬間から私を襲う。
部屋を埋めている皆の表情は疲れそして目は伏している。
私に向ける表情の微笑みは取り繕われたものだと即座に判断できた。
応接机に置かれたコーヒーカップはどれも空だ。
灰皿には山盛りの吸殻が残されいる。
多分この会議室を占拠している時間は長時間に及んでいるに違いなかった。
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この重苦しい雰囲気の原因は既に分かっていた。
誰の責任かと言う次元の内容ではなく今後どう対応すべきか。
如何なる対策を打てばこの機械はうまく稼動できるのか。
今現在の運転状況では納入することはできない。
当初提出した処理量には遠く及ばない。
このままでは出荷できるはずがない。
会社には報告ができない。
必ず順調稼動する事ができなければ私たちの社会的立場もどうなるか分からない。
私の耳に入ってくる声はどれも悲痛で地を這うように沈んでいる。
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私は感じた。
私はそう理解した。
私をわざわざ呼び出した理由。
私を見つめる目。
誰しもが期待しているようでもあり助けを求めているようだ。
それ以外の発言はこの場では決してやってはいけない。
今にして思えばその言葉をどうしても発せねばならないと思い込んだのかも知れない。
確かにその場の雰囲気で勝手に自分自身を追い詰めたのかも知れない。
その言葉の重要性は痛いほど分かっていた。
この言葉を発することによる心痛は過去の体験が物語っている。
私自身完全なる確信はない。
これにより全てが解決するとは思えなかった。
だが現状よりは改善はする。
完璧には到達しないにしろ何らしか良い方向へ進むことには疑いは持っていなかった。
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周りが求めているのは完璧でありそして完全だ。
担当者は私の過去の成功例を活発に発言する。
その目は私にまさしく発言を求めている。
肌でひしひしと感じる。
私はおいそれとは決して発言していない。
その後の苦痛、苦労が目に見えている。
良い方向に進んだとしてもそれを完璧にこなさねばならない。
海とも山とも判断がつかない。
その発言後の恐ろしさがわが身を長い時間包んでいた。
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しかし、ついぞ私は口を開いてしまった。
決して開いてはいけない口を開いてしまったのだ。
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私が発した言葉に安堵の表情が皆に広がるのに時は待たない。
瞬く間に弾んだ声の会話に変わった。
今まで底に沈んでいた生気は活気を取り戻し、場の雰囲気に明るさが感じられるようになる。
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私自身はその言葉が口から出た後は周りとは正反対に心が沈む。
その瞬間から不安と心配が交互に私の身に押し寄せてくる。
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「大丈夫です。これでやりましょう。」
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発した今言葉がその後大きな責任を背負い込む。
後悔したが後の祭り。
如何なる情況だったにせよ発言したのは私だ。
私以外の誰でもない。
周りに抵抗できなかったのは理由にならない。
全ての責任を自分が自分自身で背負い込んだのだ。
後悔してもしきれない。後悔先に立たず。
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その後何とか事務所には無事戻れたようだ。
自分自身の心の動揺が意識をわざわざ不明確にしたようだ。
確か事務所に帰社した後はパソコン画面を前に座っていたのは覚えている。
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ふと目が覚める。
昼食の弁当を食べた後机に体をうつぶせにし、そのまま眠っていたようだ。
そんなに長い時間ではないはずだ。
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隣から声がする。
職人が眠っていた私を起こしたようだ。
時計を見上げるとまだ昼休み終了時刻の1時前だ。
しかし、職人はかまわず私を揺り起こしたようだ。
職人は私を起こすなり手に持った私が以前描いた図面を広げる。
疑問点があったようで質問し始めた。
その箇所を指で指し示し一気にまくし立てる。
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私は答えた。
明確にそして自信たっぷりと。
職人に笑顔で答えた。
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「大丈夫。これで行こう。」と。
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それでは又です。
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読破中。
「素粒子と物理法則」R.P.ファインマン、S.ワインバーグ著 小林鉄郎訳
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