6月12日 封筒。。。
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今日は封筒は返却されなかった。
手許に戻らなかった事は過去一度たりともない。
担当者が変わったせいだろうか。
今回は「封筒は持って帰ってもよい。」との発言はついぞ私の耳には伝わらなかった。
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本日は自転車で会社の事務所を出る。
既に梅雨入りしてもよい季節頃だが、空を見上げると青色の背景に
白い雲が散らばっている。
一向に雨が降る気配は感じられない。
私は風を切るべく2輪車のペダルを左右交互に踏み続ける。
6月を過ぎやはり暑さは増したようだ。
ネクタイを回した首筋に汗が滲み出る感覚がわかる。
晴れ渡った空の下で自転車を先へと進める。
周りの風景が飛んでいく様子にどこかしら心地よさが体を包みこむ。
自動車の窓越しに映える景色の動画ほどの素早さはない。
そのため目に映る生きとし生けるものを明確に認識ができる。
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額の髪の生え際に汗が浮かび上げる頃には自転車から降り、両手でハンドルを握り
2本足を大地に交互に着地しながら駐輪場へ向かう。
パイプとパイプの間に前輪を差し込むと、料金ボックスから出ているワイヤーロープを
自転車の前輪へ巻き付けロックすべき穴へと差し込む。
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駅の駐輪場を離れると地下鉄に乗り込み目的地の駅へと向かう。
電車から降り、改札口を出る。
やはり人が多い。様々な年齢層そして老若男女の人々が歩いている。
ここは九州一の繁華街の中の地下街。
人ごみの中を通り抜けいよいよ本日の目的地へと足を向ける。
途中での鼻の嗅覚を存分に刺激したきつい化粧の匂いはしばらくは消え去ることがなかった。
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いよいよ到着だ。
いつも行うように1階のロビーのソファーに腰掛ける。
手に持った鞄から今回の資料に目をやり、今回の開始時刻を確認する。
早い。
まだかなり時間がある。
その資料を鞄へ詰め込むとその代わりに文庫本を取り出す。
本のページをめくりながらも私の横に座っている2人の人物の様子が気に掛かる。
二人とも背広を着込んでいる。
年齢は私よりも一回り上のようだ。
二人とも囁く様に会話している。
わざわざ声を落とし話をするため余計に気になる。
本を横目にその会話に聞き耳を立てる。
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やはりそうであろうか。
この場所独特のこの場所だからこそ耳にできる会話であろうか。
もしかすると聞こえてくる数字は人をはばかる内容では。
訝しくもそして怒りにも似た感情が沸き起こる。
今だなくなっていないのであろうか。
やはり根本からなくす、根絶することは不可能に近いことなのだろうか。
もし、事実だとすると。
この二人の目つきは獲物を追う獰猛さに輝いているかのようだ。
果たして会社を存続するためひいては生活の糧を得るためには致し方のないことで
あろうか。
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そろそろ時間だ。
既に二人の人物は立ち去っていない。
周りを気にしながら消え去る様子は今だ脳裏から消え去らない。
階段を登りその場所へと向かう。
既に何人かは入口ドア手前の長椅子に座っていた。
「業者間会話禁止」と大きく書かれた張り紙にめげずに既に話し込んでいる。
次々と参加すべき人物が空いている椅子の隙間を埋めていく。
見知っている人達もいるのだろう。
挨拶する声が廊下に響く。
私は一切顔を上げずに手にした文庫本に目をやる。
どれだけの時間が経過したであろう。
ドアの上に配置されたスピーカーから部屋に入るようにとの声が
そこらじゅうに反響する。
その声に椅子に座り待ちかねていた皆は一斉に立ち上がる。
部屋に入ると先に入った者から奥の椅子に座る。
椅子の前には机が配置されている。
机の両側には敷居が張り巡らされ、隣の様子を簡単には窺い知れない構造になっている。
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今回は10人か。
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実のところこのために取られる時間は仕事上支障をきたす。
確かに年に何度かは自社の案件とはなる。
時間設定にはこちら側の事情など一切考慮があるはずがない。
取れるはずもない案件のためにも何度も足を運ばねばならない。
今回も金額を提示するメーカーの意向により多分取れる業者は確定済みだ。
赤字を出してまでもとろうと思えばできないこともない。
しかし、そこまで遣ったところで次に果たして案件が転がり込むかどうかは
皆無に等しい。
取れないと判っていても参加しないことには、次からは声が掛からなくなる可能性がある。
過去我が社は不参加届けを出した過去はある。
それは何かしらの事情がありその理由をはっきりと提示できる場合のみだ。
今回のように別段参加できない事情がないのであれば当然足を運ぶべきだ。
取れるあるいは取れるかも知れないと思えば自然と足は向く。
だが殆どは仕入先から金額提示があった時点で既にはっきりと認識ができる。
やはり時間の無駄である。
その参加会場までの往復時間。電車賃。人件費。
全てに何の価値も生まない。
図面描き。客先訪問。我が町工場へ足を運ぶ。
いくらでも自分にはこなさねばならぬ仕事がある。
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しかしながら、一年間に何件かは我が社の受注案件となる。
何故自社が受注できるかは訝しく、怪しくそして不思議にさえ思う。
しかし、入金は早い。
それに現金だ。
かなり魅力的ではある。
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いつもながら2年に一度の入札資格申請時は思い悩む。
全く一度たりとも取れなければ意図も簡単に中止すれば済む。
現実には何度かの幸運が巡って来る。
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担当者の指示通りに10社皆入札書を封筒に入れ差し出す。
担当者前の机に全て入札書が置かれると開封が始まる。
今回は無理だとの認識ではっきりしているため何ら心の動きはなかった。
待つ間いらいらする心地でさえあった。
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いよいよ開封結果の発表だ。
次々に会社名と金額が耳に聞こえる。
金額が高い会社より発表される。
我が社は最後から3番目だたっと思う。
入札落札決定後、落札業者は担当者に呼び出される。
この時点で他の者は退席してもよい。
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一人、二人と三々五々退室始める。
だが私は待った。その部屋にとどまり待った。
担当者から発せられるであろう言葉を待ち望んだ。
しかし、発せられない。
発せられる気配すら感じられない。
とうとう私は痺れを切らし担当者を目で追いながら退室した。
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いつもと違った。
過去必ず担当者から声が掛かった。
そのお陰で無理して参加した甲斐があったようなものだ。
何の甲斐性もないと判っているのにわざわざお金を出して参加しているのだ。
利益が全く生まれないとわかっているのに。
いや損失を出すとわかっているのにわざわざ足を運んでいるのだ。
もしかするとそれがあるからこそ参加していたのかもしれない。
返却されるというその行為を粋に感じ遣って来ていたのかも知れない。
それが今回なかったのだ。
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入札書は必ず自社製の小さな封筒に入れ差し出す。
その小さな封筒には必ず自社の会社名が記入、印刷されている。
たかが小さな封筒だろうがお金が掛かっているのだ。
その封筒はわずかな時間入札担当者の手許で使用される。
わずかな時間だ。
決して糊付け、セロハンテープでは封はしていない。
まだまだ使える。
これからも十二分に活躍をさせることができるのだ。
残念だった。
しかし、本来はその物ではない。
その心遣い。その行為。その粋な計らいこそが生き延びて欲しかったに過ぎない。
気づく。気づかないは人それぞれだろう。
それはやはり常日頃の心配りの表れだろうか。
たかが封筒。されど封筒なのだ。
その封筒そのものには計り知れない心模様が隠されたあったはずなのに。
その模様が今回は無碍にされてしまったのだ。
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次回の入札では提出する封筒に自分の似顔絵を描こうかと思い悩んでいる。
さすればきっとその封筒に隠された切なる思いが伝わるだろう。
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それでは又です。
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読破中。
「素粒子と物理法則」R.P.ファインマン、S.ワインバーグ著 小林鉄郎訳
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2007.6.12by 博多の森と山ちゃん
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